
続・続・下呂
「相変わらずな人間じゃての」
マスターが消えた方角を眺めながら亭主が可可と言う。
『相変わらず? 昔からああいう人やのん?』
104氏が意匠を凝らした椅子に腰を下ろしながら亭主に聞く。
「あれは阿呆じゃての
わざわざ重い荷を背負いながら泳ぐ必要のない大海を泳いでおる。
一般から見ると、そうじゃな確かになんでも持ち合わせておるかのような人間じゃがの
わしにはそれが生き急いでおるように見えてならんのじゃて。
突き詰めていけば何か一般には見えぬ世界があるのかも知れぬ・・・
いや、あれには既にその入口が見えておるのやも知れぬな・・・
見えておりながら強気なあれとてなかなか闇雲に盲進出来んのじゃろな。
季節が一巡する間に度々此処にやってくるのだからの。
業深い人間じゃて・・・」
亭主が着物の帯の結び目位置を正しながら104氏の向かいの椅子に腰を下ろした。
「さて青年、あれとは長い付き合いであるのかの?」
人懐こい笑みを浮かべながら亭主が104氏に言った。
『長くないやわいよ。 今年の春先に知り合ったばかりやわいね』
104氏はつられて笑いながらそう答えた。
すると、亭主はほぅ、と呟き思案気に104氏を眺めたあとで言った。
「あれからは学ぶことも多いじゃろて、縁は大切にしなさい
もし青年にあれが見ているのと同じ世界が見えたなら怖がることはない
進んでみなされ。
どうしても思い悩むような岐路に立つことになったのなら
遠慮することはない、いつでも此処にこられるがよろしかろう」
亭主は可可と笑い、さて夕餉の支度でもするかのと廊下の奥に消えていった。
『ふわぁ、休むタイミングを攫み損ねたやわいねぇ・・・』
そんなことを言いながらしばらく椅子の肘かけを撫で回したり
ぽぅんぽぅんと椅子の上でお尻を跳ねさせていた104氏であったがそれらにすぐ飽きてしまった。
『マスターは何をしちょるやわいね? どうせなら散歩についていけばよかったわいね』
うん、と少し考えた顔をした後、104氏は下駄を履き庭にマスターを探しに出掛けた。