
マスター
いい気分に酔っぱらった104氏がカウンターの向こうに声をかける。
『マスター!コロナビールあるん?』
慣れた手つきでグラスを磨き上げていたマスターの眼に邪険な色が浮かぶのに104氏は気がつかない。
『ライムを縦切りで口に添えて欲しいやわいねっ』
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(まったく面倒なモノ拾っちまったな・・・)
カウンターの中には漆黒の眼球に邪険の色を浮かばせ誰にとも知れずに独り愚痴るマスターがいる。
(しかし、なかなか面白いモノでもあるか・・・)
(この御時世にあんなもんで向こう見ずに走ってる奴がいるなんてなぁ・・・はっ?だから拾っちまったのか?)
「おい、コロナビールありますかだろ?口の利き方も判らん阿呆かお前??」
『アホゥやないやわいね!マスターもなんか飲みまっし』
「うちの店は安くないぜ?俺が飲む分はお前の払いだぞ?解って言ってるか?」
『うぬぅ!オトコに二言はないやわい!!マスターも飲むやわいね!』
「ったく、だから阿呆って言われんだよ」
眠たそうなバランタインをバカラに注いでいるその眼からは邪険な色は窺えなくなっていた。
もちろん104氏がそれに気付くはずもないのだが。
『それはなんてお酒?ビンが薄汚れてるやわいね』
「バランタインの30年だ、お前より年上だぞ」
その琥珀色の液体の薫りを吸い込みながらシニカルな笑みを浮かべマスターが言う。
「32種類のモルト原酒と5種類のグレーン原酒のブレンドだ、すべての原酒が30年以上熟成されてなきゃならん」
『ふ〜ん、ちょっと飲まして欲しいやわいね!』
言うやいなやコロナビールをクピクピッと飲み干す104氏。
マスターの眼に邪険の色がまた浮かびつつある。
例によって104氏はそれに気付かない、気づけるはずもない。
「1杯5000円だぞ?」
意地悪そうにマスターが笑う。
『うぬぅ!構わんやわいねっ!1杯くれやわいね』
「俺ももう1杯飲んでいいか?」
『うううぬぅ!乾杯するやわいねっ!』
(阿呆だコイツ・・・)
先ほど磨き終えたばかりのバカラを手にマスターが艶やかな液体を注いでいる。
「ほれ、バランタイン30年だ」
『うむ、乾杯やわいね!』
「何に乾杯なんだ?」
『うぬぅ・・・二人の友情の始まりに!やわいね』
「誰が誰とお友達なんだ??」
『104氏とマスターが・・・』
104氏が言い終わらぬうちにマスターが呟いた。
「ははっ、出会ったばかりのお前と?無理だな」
(コイツは面白いヤツだ)
『ふぬぅ!104氏の弟子入りに乾杯っ!!!』
「!!?、弟子入り・・・したいのか??」
『ううむ、よく分からんやわいね』
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キィンッ。
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バカラを持つ手に軽い衝撃をおぼえた104氏にマスターが言った。
「ま、弟子なんぞとるのは初めてだがな、乾杯だ」
「それからそのバカラはお前にやる、持ち帰るもここに置いとくも自由だ」
『うむ、ありがとう!じゃ、置いとくやわいね』
「よし、今日は店仕舞いだ」
レジを兼ねるPCのキーボードを叩くマスター。
「ほれ、今夜の飲み代の請求書だ」
『うぬぅ!ビール1瓶と茶色い液体1杯で18000円とは!これ如何に??!』